チェルノブイリを生き抜く最後の犬たち

· 2019年3月5日
実際、原発事故が起きた後に安楽死させられた動物は数知れません。しかし、その中で生き残った動物もいるのです。

チェルノブイリ原発事故が起きて数十年経った今でも、その光景は未だ人々の心に焼きついています。それと同時に、この事故を今も必死に生き抜こうとしている犬たちが居るという事実も、末長く人々の心に残っていて欲しいと思います。

1986年、人類が引き起こした起こした最も酷い災害の一つが起こりました。それは当時、私達が今まで経験したこともない、非常に大規模な原子力発電事故でした。同年4月26日、当時ソ連の一部であった現在のウクライナのとある街で、原発がオーバーヒートを起こし、広島に落とされた原爆の500倍もの放射線量が突如降り注いだのです。

チェルノブイリ原発事故では、31人の尊い命が犠牲となり、また10万人以上もの人々が緊急避難を余儀なくされました。また原発から半径30km圏内は汚染区域と定められ、その近辺に住んでいた数百万人もの人々の生活をも脅かしたのです。

チェルノブイリ:野生動物は避難できたのか?

今、原子力発電所は3万トンもの石棺によって封印されていますが、未だに「立入禁止区域」が存在しています。ここに住む人がいるとすれば、それは違法滞在者という事になりますが、とにかく人間の立ち入りが制限されてからというもの、ここの生物多様性には目を見張るものがあります。

事故後、原発近くに生えていた松の木は赤や金に変色し、赤い森と名付けられました。動物に関しては事故後ほとんどが死んでしまったり、繁殖能力を失ったりしてしまいましたが、最近はこの赤い森が野生動物の避難所となっているようなのです。

どうやらチェルノブイリ近辺では人間が全く活動していませんので、そのおかげで野生が戻ってきたようで、中にはこの地区を自然保護区にしようというアイデアまで出てきた次第です。しかし、確かに酷い災害があった後にも関わらず、この地区の生物は徐々に多様化して行っています。信じられないかもしれませんが、絶滅危惧種に指定されている熊や、リンクス、鳥、オオカミなどが、この人間が去った土地に再び住み着いている事が報告されているのです。

雪の上に立つ犬

このように言えば、随分耳障りの良い話にも聞こえますが現実はそうでもありません。ここに住む動物たちの寿命は短く、奇形によって繁殖活動ができない動物もたくさんいるのです。

またこの地区の蜘蛛だけ巣の貼り方が違っていたりなど、放射能は驚く程生態系に強い影響を与えています。

チェルノブイリの厳しい環境に住む犬たち

しかし、そのほかの動物たち (特に犬) はもっぱら、赤い森ではなく立入制限区域内の道路をさまよっています。彼らの祖先は汚染地域で生き抜く力が無かった犬たちですが、今の代は埃にまみれながら生き抜く術を持っています。

チェルノブイリの犬は厳しい環境で生活しています。彼らの祖先は飼い主に見捨てられ、急に人間の手の届かない野生の国に放り出されたのです。例えば「ターザン」と名付けられた一匹の子犬は、母犬がオオカミの群れに食べられ、孤独な暮らしを余儀なくされました。そんな彼は、今はチェルノブイリのツアーガイドさんにお世話してもらっています

当然、生活環境も厳しいものです。高い放射線量は常に繁殖力や寿命を低下させますし、それに加えて東ヨーロッパの厳しい冬に耐えられるだけの避難スペースも多くありません。その結果、チェルノブイリに暮らす犬の多くは、6才になる前に被曝により死んでしまいます。

実際、原発事故が起きた後に安楽死させられた動物は数知れません。しかし、その中で生き残った動物もおり、この2,600平方キロメートルというエリアには300頭もの犬が暮らしていると推定されています。当然この数は人間の数より多いので、大部分が飼い主のいない野良犬です。

ツアーガイド:チェルノブイリに暮らす犬にとっての希望

ただ幸運な事に、チェルノブイリはある意味歴史遺産として名を残し、ここに住む犬は観光業の恩恵を受ける事ができます。彼らはカフェなどの近くに住み、旅行客からのおこぼれを授かったりもしているのです。

廃村に住む犬 チェルノブイリ原発事故 動物 犬

またツアーガイドさんたちがこの地区に小さな動物保護施設を立ち上げ、ワンちゃんはそこで残り物のご飯を食べたり、ウクライナの寒さ厳しい夜を寝過ごす事ができるようになっています。そんなツアーガイドさんは、ここに住む動物たちに手を差し伸べる人が少ないという現状を嘆きます:

基本的に旅行客は犬が大好きです。でも中には当然、汚染された物を見る目で彼らと距離を置く人もいます。私達からすると、彼らと暮らすのには特段リスクがあるとは思えませんが、やはりツアーガイドの中でもややこしい事に巻き込まれないように、動物には近づかないようにしている人もいます。でも、ここで働いていると、大体の人が彼らの可愛さに心を許し始めるのです。「やっと友達を見つけた」と言わんばかりの彼らの姿には、抗うことができないのです。

チェルノブイリに住む犬たちの今後

NGO団体は、この地区に狂犬病やパルボウイルスなどの病気に対する予防接種が受けられる動物病院の創設に尽力を注いでいます。実は、彼らはすでに古い発電所を改装した簡易的な動物病院を運営しており、チェルノブイリに住む数少ない飼い主さん達は、こぞって愛するペットをそこに連れて行きます。しかも、この動物病院はペットだけでなく、野良犬達にもお世話を提供する場となっているのです。

このような努力の末、チェルノブイリに住む犬達は出生率を抑える為の去勢手術を受けられるようになってきています。この地区に住む犬は人間への二次被害というリスクから、エリア外に連れ出す事ができないので、この地区での出生率が高ければ高いほど、この苦しい環境で暮らしていかなければならない命が多くなってしまいます。ですがこの計画が着実に進めば、いずれチェルノブイリを彷徨う犬も居なくなる事でしょう。

さて、チェルノブイリ原発事故のような災害は人間だけでなく動物にも大きな影響を与えているようです。しかし、ここに住む犬達が少しでも幸せに暮らせるようにと努力する人たちが居るという事実は、まさに不幸中の幸いと言えるでしょう。